歯磨き。

いつの頃からか、奥歯に女の子が居座るようになった。
虫歯で少し欠けた右の奥歯に腰掛けるようにして、キモノの女の子が。
特に何があるという訳でもない。ただそこにいるだけ。
迷惑なのは歯を磨く時に、ブラシがキモノにあたってほつれてしまうから、どうしたってそこを除けて掃除をすることになるってことだ。
おかげで、小さかった僕の虫歯は、どんどん大きくなるばかり。
痛い。痛いなぁ。けどあの反物、高いんだよなぁ。
だけどまぁ、悪いことばかりでもない。
僕がどうしようもなく怒ったり、くだらないことで苛ついて、誰かに強い言葉を投げつけてしまいそうになると、女の子が頬の内側を引っ張って諌めてくれるのだ。

「どうして君はそんな、奥歯に物が挟まったような言い方をするのだね」
「実はですね、閣下。じつはおくばにおんなのこが……いえ、なんでもございません」
「それがいかんというのだ」
今もキモノの女の子は、少し広くなった右の奥歯に、ちんまりと座っている。






いやですね、歯を磨く際に魚の小骨のようなペレット的なアレが吐き出されるようになりましてね。
しかしどう首を捻っても、小骨があるものを食べた記憶はない。
(これは……!)
やったぜ、ついに俺も猫とか梟の仲間入りだぜ、やったぜ。とか思っていたのですが、真相はなんてことは御座いません。
歯ブラシが古くなって、抜けた毛先が喉に引っかかっていただけでした。ちぇっ。
ぬか喜びでした。そろそろ替えます。